「家族とはもう長いこと連絡を取っていない。自分が亡くなったら、葬儀は誰がしてくれるのだろう」
「部屋に残った荷物はどうなるのか。大家さんに迷惑をかけてしまうのではないか」
「考えたくはないけれど、考えておかないといけない気がする」
身寄りが少ない方、ひとりで暮らしている方にとって、自分が亡くなったあとのことは、ふとした瞬間に頭をよぎる不安だと思います。口に出しにくいぶん、ひとりで抱え込んでしまいがちなことでもあります。
まずお伝えしたいのは、身寄りがなくても、亡くなったあとに最低限の葬儀が行われる仕組みがあるということです。生活保護の「葬祭扶助」がそのひとつです。
一方で、借りている部屋の契約や、部屋に残った家財の扱いは、何も準備がないと手続きに時間がかかることがあります。この記事では、葬祭扶助の仕組みと、亡くなったあとの部屋の扱い、そして今のうちにできる備えを整理します。支援者の方や、大家さん・管理会社の方にも役立つ内容をまとめました。
結論|葬儀には公的な仕組みがある。部屋のことは「生前の備え」が助けになる
- 葬祭扶助:身寄りがない方が亡くなったとき、大家さんや民生委員など、家族以外の人が葬儀を行う場合にも支給される
- 内容:火葬を中心とした、最低限の葬儀の費用が対象
- 遺されたお金:先に葬儀の費用に充てられ、足りない分を葬祭扶助で補う
- 部屋の契約と家財:亡くなっても契約は自動的には終わらず、家財とともに相続人に引き継がれる。相続人がいない・分からないと、手続きに時間がかかる
- 今できる備え:国が示している「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の活用、家財の整理、希望を伝えておくこと
葬祭扶助とは何か
葬祭扶助は、生活保護法第18条に定められている扶助のひとつです。対象となるのは、次の4つの範囲の費用です。
- 検案(医師による死亡の確認など)
- 遺体の運搬
- 火葬または埋葬
- 納骨その他、葬祭のために必要なもの
対象になるのは、大きく2つの場合
① 葬儀を行う遺族自身が、生活に困っている場合
家族が亡くなったけれど、葬儀を行う遺族も困窮していて費用を出せない場合です。
② 亡くなった方に、葬儀を行う家族がいない場合
生活保護を受けていた方が亡くなり、葬儀を行う扶養義務者(家族など)がいない場合や、遺されたお金で葬儀の費用をまかなえない場合に、家族以外で葬儀を行う人がいれば、その人に対して支給されます。
身寄りのない方の場合に関わるのは、主に②です。葬祭扶助は、亡くなった方本人ではなく、葬儀を行う人に対して支給されるという点が、ほかの扶助と違うところです。実際には、福祉事務所から葬儀社に直接支払われることも多くあります。
金額の目安
葬祭扶助には上限があり、基準は改定されてきました。2024年4月からの基準では、1級地・2級地の大人で215,000円以内とされ、2026年9月時点の公表情報では、1級地・2級地の大人で222,000円以内とされています。火葬料などが基準を超える場合には、一定の範囲で加算が認められることもあります。
金額は目安です
基準は改定されることがあり、地域や状況によって扱いが異なる場合があります。実際の金額や手続きは、お住まいの区の福祉事務所でご確認ください。
どんな葬儀になるのか
葬祭扶助で行われるのは、最低限の葬儀です。通夜や告別式などは行わず、遺体の搬送、安置、棺、火葬、骨つぼといった、火葬を中心とした簡素な形が一般的です。お墓や、その後の法要の費用は対象になりません。
簡素ではあっても、きちんと見送られる仕組みが用意されていることは、知っておいていただきたいと思います。
身寄りのない方が亡くなったとき、誰が葬儀をするのか
家族が葬儀を行えない場合、次のような立場の人が葬祭扶助を申請して、葬儀を行うことがあります。
- 住んでいた部屋の大家さん
- 地域の民生委員
- 入院していた病院の院長や、入所していた施設の施設長
- 友人・知人
大切なのは、葬祭扶助の申請は、葬儀を行う前にする必要があるということです。先に葬儀を済ませてしまうと、支給の対象にならないことがあります。葬儀を行う人は、まず福祉事務所に連絡してください。
なお、葬儀を行う人が誰もいない、または分からない場合は、法律にもとづいて、亡くなった場所の市町村が火葬などを行うことになっています。どのような場合でも、亡くなった方がそのままにされることはありません。
また、長く連絡を取っていない家族がいる場合は、まずその家族に連絡がいくことがあります。家族との関係について事情がある方は、日頃からケースワーカーに伝えておくと安心です。
遺されたお金や持ち物はどうなるか
亡くなった方が遺したお金や持ち物(遺留金品)は、まず葬儀の費用に充てられます。それで足りない分を、葬祭扶助で補う仕組みです。生活保護法でも、福祉事務所が遺留金品を葬祭扶助の費用に充てることができるとされています。
葬儀の費用に充てても残ったものは、相続人に引き渡されます。相続人がいない場合は、家庭裁判所が選ぶ「相続財産清算人」による手続きなどを経て、最終的には国のものになるのが原則です。
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亡くなったあと、借りていた部屋はどうなるか
ここからは、不動産会社としてお伝えしたい部分です。
賃貸の契約は、自動的には終わらない
意外に思われるかもしれませんが、借りている人が亡くなっても、賃貸の契約は自動的には終わりません。部屋を借りる権利(賃借権)は、相続人に引き継がれます。契約を終わらせるには、相続人と大家さんの間で解約の手続きをする必要があります。
部屋に残った家財も、相続人のもの
部屋に残された家具や衣類、思い出の品などの家財も、相続人に引き継がれます。そのため、大家さんであっても、勝手に片付けたり処分したりすることはできないのが原則です。
相続人がいない・分からないと、時間がかかる
相続人が見つかれば、その人と話を進めることができます。しかし、相続人がいない、どこにいるか分からない、連絡しても応じてもらえない、といった場合は、契約を終わらせることも、家財を片付けることも難しくなります。家庭裁判所での手続きが必要になることもあり、部屋がそのままの状態で長い期間が過ぎてしまうことがあります。
その間、亡くなったあとの家賃は、生活保護の扶助で支払われないのが基本です。大家さんにとっては、家賃が入らないまま部屋を次の人に貸すこともできない状態が続きます。
こうした事情から、身寄りのないご高齢の方の入居に、大家さんが慎重になってしまうという現実があります。だからこそ国は、次にご紹介する仕組みを用意しています。
生きているうちにできる備え
亡くなったあとのことを考えるのは、気持ちのよいことではありません。それでも、今のうちに少し準備しておくだけで、自分の希望を叶えやすくなり、周りの人の負担も軽くなります。そして何より、「もしものときも大丈夫」という安心が、今の暮らしを支えてくれます。
① 「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用する
国土交通省と法務省は、2021年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」という契約のひな形を公表しました。主に60歳以上のひとり暮らしの方が部屋を借りるときに使うことを想定したものです。
どんな仕組みか
部屋を借りるときに、信頼できる人(受任者)に、次の2つをあらかじめ頼んでおく契約です。
- 亡くなったあとに、賃貸の契約を解約すること
- 部屋に残った家財を処理すること(捨てるもの、指定した人に送るもの)
受任者には、推定相続人のほか、居住支援法人や管理業者などがなることが想定されています。家財の廃棄は、亡くなってから一定期間(少なくとも3か月)が経ち、契約が終わったあとに行う、といったルールも示されています。
この仕組みを使うことで、相続人がいない、または分からない場合でも、部屋の契約や家財の扱いを進めやすくなります。大家さんの不安が減るため、ひとり暮らしのご高齢の方が部屋を借りやすくなる効果も期待されています。使うことは義務ではありませんが、こうした選択肢があることを知っておいてください。
② 家財を整理し、大切なものを分かりやすくしておく
家財が少ないほど、あとの片付けは楽になります。また、形見として残したいもの、届けてほしい相手がある場合は、リストを作ったり、目印をつけたり、決まった場所にまとめたりしておくと、受け取る人に伝わりやすくなります。
③ 希望を、信頼できる人に伝えておく
「亡くなったら連絡してほしい人」「葬儀についての希望」「連絡しないでほしい家族」などを、担当のケースワーカーや民生委員、支援者など、信頼できる人に伝えておきましょう。紙に書いて、分かる場所に置いておくのもひとつの方法です。ケースワーカーは、こうした話も一緒に整理してくれる相手です。
④ 日頃から、誰かとつながっておく
地域の見守りサービスや、地域包括支援センター、民生委員とのつながりは、もしものときだけでなく、日々の暮らしの安心にもつながります。体調が悪いときに気づいてもらえることは、何より大切です。
民間のサービスを使う場合は、慎重に
身元保証や、亡くなったあとの手続きを代わりに行う民間のサービスもあります。国も2024年6月に、こうした事業者向けのガイドラインをまとめています。ただし、費用が高額になることや、契約内容が分かりにくいこともあるため、利用を考える場合は、まず福祉事務所や地域包括支援センターなどの公的な窓口に相談してください。契約する前に、費用の総額、預けるお金の管理方法、解約の条件を、必ず書面で確認しましょう。
数字でイメージしてみます
身寄りのない方が亡くなり、大家さんが福祉事務所に相談して葬儀を行う場合の、考え方の例です。
火葬を中心とした葬儀の費用
搬送・安置・棺・火葬・骨つぼなど:200,000円(仮の例)
遺されたお金
部屋に残っていた現金や預金:50,000円(仮の例)
→ まずこの50,000円が葬儀の費用に充てられる
葬祭扶助
200,000円 − 50,000円 = 150,000円が、葬祭扶助で補われる可能性があります
→ 葬儀を行った大家さんの負担なく、見送ることができる形になります
数字はあくまで考え方の例です
実際の葬儀の費用、遺留金品の扱い、葬祭扶助の額は、状況に応じて福祉事務所が判断します。上の数字は仕組みをイメージしていただくための仮の例です。
大家さん・管理会社の方へ
入居者の方が亡くなられた場合に、確認しておきたい流れです。
- 生活保護を受けていた方であれば、担当の福祉事務所に連絡する
- 葬儀を行う場合は、葬儀の前に福祉事務所へ葬祭扶助について相談する
- 部屋の家財は相続人のものなので、勝手に処分しない
- 相続人の有無や連絡先を確認し、契約の終了や家財の扱いを話し合う
- 相続人がいない・分からない場合は、弁護士・司法書士などの専門家に相談する
これから単身の高齢の方を受け入れる場合は、入居時に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することで、万一のときの不安を減らすことができます。国土交通省のホームページで、ひな形や活用ガイドブックが公開されています。
当社にできること・できないこと
当社は不動産会社として、身寄りのない方やひとり暮らしのご高齢の方のお部屋探しのご相談に対応しています。一方、葬儀の手配、相続や亡くなったあとの法的な手続き、相続人の調査は行えません。これらは福祉事務所、葬儀社、弁護士・司法書士などの専門家の領域です。当社は借主・貸主どちらの立場でも賃貸に関わることがあるため、特定の立場に立った法的な助言も控えています。
よくあるご質問
Q1. 葬祭扶助とは何ですか?
生活保護法第18条に定められた扶助で、検案、遺体の運搬、火葬または埋葬、納骨など、最低限の葬儀に必要な費用が対象です。葬儀を行う遺族が困窮している場合や、亡くなった方に葬儀を行う家族がいない場合に、葬儀を行う人に対して支給されます。
Q2. 身寄りがない場合、誰が葬祭扶助を申請しますか?
大家さん、民生委員、入院していた病院の院長、入所していた施設の施設長、友人・知人など、家族以外で葬儀を行う人が申請できます。申請は葬儀を行う前に必要です。葬儀を行う人が誰もいない場合は、亡くなった場所の市町村が火葬などを行います。
Q3. 葬祭扶助の金額はいくらですか?
上限は改定されており、2024年4月からの基準では1級地・2級地の大人で215,000円以内、2026年9月時点の公表情報では222,000円以内とされています。火葬料などが基準を超える場合に加算が認められることもあります。実際の金額は福祉事務所でご確認ください。
Q4. 借りている人が亡くなったら、賃貸の契約は終わりますか?
自動的には終わりません。部屋を借りる権利と部屋に残った家財は、相続人に引き継がれます。契約を終わらせるには相続人と大家さんの間で手続きが必要で、相続人がいない・分からない場合は手続きに時間がかかることがあります。
Q5. 残置物の処理等に関するモデル契約条項とは何ですか?
国土交通省と法務省が2021年6月に公表した契約のひな形です。主に60歳以上のひとり暮らしの方が部屋を借りるときに、信頼できる受任者に、亡くなったあとの賃貸契約の解約と家財の処理をあらかじめ頼んでおく内容です。使うことは義務ではありませんが、大家さんの不安を減らし、入居しやすくなる効果が期待されています。
Q6. 亡くなったあと、部屋に残したお金や持ち物はどうなりますか?
遺されたお金や持ち物は、まず葬儀の費用に充てられ、足りない分を葬祭扶助で補います。残ったものは相続人に引き渡され、相続人がいない場合は、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人による手続きなどを経て、最終的には国のものになるのが原則です。
まとめ
- 身寄りがなくても、葬祭扶助によって最低限の葬儀が行われる仕組みがある
- 大家さんや民生委員など、家族以外が葬儀を行う場合も対象。申請は葬儀の前に
- 金額は改定されており、2026年9月時点の公表情報では大人222,000円以内(1級地・2級地)
- 遺されたお金は、まず葬儀の費用に充てられる
- 賃貸の契約と家財は相続人に引き継がれ、自動的には終わらない
- 相続人がいない・分からないと、部屋の手続きに時間がかかる
- モデル契約条項の活用、家財の整理、希望を伝えることが、今できる備え
- 民間のサービスは、公的な窓口に相談したうえで慎重に
亡くなったあとのことを考えるのは、決して後ろ向きなことではありません。もしものときの備えができていると、今の暮らしをもっと安心して送れるようになります。ひとりで考え込まず、信頼できる人と少しずつ話してみてください。
自分がいなくなったあとのことを思うと、寂しさや心細さで胸がいっぱいになることもあると思います。そうした気持ちを抱えるのは、ごく自然なことです。けれど、大切なのは、今日という日をどう過ごすかです。好きなものを食べる、季節の移り変わりを感じる、誰かと少し言葉を交わす。小さな楽しみを大切にしてください。気持ちが沈んで眠れない日が続くときは、ケースワーカーや地域包括支援センター、かかりつけの医師に話してみてください。あなたのことを気にかけている人は、思っているよりも近くにいます。
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