後見人が決まったので、これで実家を売れますよね」
施設の費用が待ったなしなのに、あとどれくらいかかるのでしょうか」
家庭裁判所の許可がいると言われたが、何を出せばいいのか分からない」
成年後見の道を選んだ方から、この段階でよくいただくご相談です。
先に、いちばん大事なことをお伝えします。後見人が選ばれても、それだけでは家は売れません。親御さんが住んでいた家を売るには、家庭裁判所の許可がもう一度必要だからです。
成年後見人が親御さんの住んでいた家を売るには、家庭裁判所の「居住用不動産処分許可」が必要です(民法859条の3)。許可を得ずにした売買は無効とされます。後見等開始の申立てから決済までは、順調に進んでもおおむね半年前後が目安です。申立てから審判までがおおむね1か月〜2か月、審判の確定に2週間、そのあと買主を探し、売買契約を結んでから許可の申立てをして、許可の審判がおおむね3〜4週間。この順番は飛ばせません。
全体の流れ|8つの段階
まず、地図を持っていただきます。どこにいるのかが分かると、待つ時間の感じ方が変わります。
| 段階 | 何をするか | 誰がするか |
|---|---|---|
| 1 | 医師に診断書・本人情報シートを書いてもらう | ご家族 |
| 2 | 岡山家庭裁判所に後見等開始を申し立てる | ご家族(四親等内の親族など) |
| 3 | 家庭裁判所の調査・審判。後見人等が選ばれる | 家庭裁判所 |
| 4 | 審判が確定し、後見の登記がされる | 家庭裁判所 |
| 5 | 後見人が実家の査定を取り、買主を探す | 後見人+不動産会社 |
| 6 | 「許可が下りなければ白紙」という条件付きで売買契約を結ぶ | 後見人・買主 |
| 7 | 居住用不動産処分許可を申し立てる | 後見人 |
| 8 | 許可の審判が出てから、決済・引渡し | 全員 |
2と7の2回、家庭裁判所の判断を待つという構造です。ここが、通常の売却といちばん違う点です。
期間の目安|どれくらい待つのか
それぞれにかかる時間の目安です。いずれも「おおむね」の数字で、事情によって前後します。
| 段階 | 期間の目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 診断書・本人情報シートの準備 | 2週間〜1か月 | 医療機関の混み具合によります |
| 後見等開始の申立て → 審判 | おおむね1か月〜2か月 | 岡山家庭裁判所の手引き。全国では2か月以内に終わったものが約72.0%、4か月以内が約93.8%(令和6年) |
| 審判の確定 | 2週間 | 即時抗告ができる期間です |
| 後見の登記・登記事項証明書の取得 | 数週間 | 後見人であることを証明する書類です |
| 買主を探す | 物件によります | ここだけは家庭裁判所の話ではありません |
| 居住用不動産処分許可の申立て → 審判 | おおむね3〜4週間 | 実務上の目安です |
合計すると、早くても半年前後。「思い立ってから3か月で現金化」という進み方にはなりません。施設費用の資金繰りは、この前提で組み立ててください。
ただし、5番の「買主を探す」は、後見人が決まる前から準備を始められます。査定を取り、相場を把握し、売れる見込みを立てておく。この部分は当社でお手伝いできますし、実際にここを先に進めておくと、全体が1か月〜2か月縮まることがあります。
山場その1|後見人に自分がなれるとは限りません
ここは、先にお伝えしておくべきことです。
後見人を家庭裁判所に選んでもらう際、ご家族が候補者として名前を挙げることはできます。ただし、決めるのは家庭裁判所です。最高裁判所の統計(令和6年1月〜12月)では、成年後見人等に選任された方のうち、親族は約17.1%でした。残りの約82.9%は親族以外で、内訳は司法書士が約34.7%、弁護士が約25.7%、社会福祉士が約20.1%です。
つまり、8割以上のケースで、親族ではない専門職の方が後見人になっています。
「自分が後見人になって、自分の判断で実家を売る」という絵を描いていると、ここで大きく戸惑います。専門職が後見人になった場合、売却を進めるのはその方であり、ご家族は情報を提供し、相談しながら進める立場になります。
これは制度の欠陥ではなく、親御さんの財産を第三者の目でも守るための仕組みです。ただ、知らずに進むとつらいので、最初に書いておきます。
なお、専門職が後見人になると、その方への報酬が親御さんの財産から支払われます。金額は家庭裁判所が、財産の額や後見事務の内容を考慮して決めます。売却が終わっても後見は続くため、この費用は継続します。
山場その2|居住用不動産処分許可とは
後見人が選ばれた後、実家を売るために必要になるのがこの許可です。
民法859条の3で、成年後見人が本人の居住用不動産を処分するときは家庭裁判所の許可を得なければならない、と定められています。住む場所が変わることは本人の心身に大きな影響を与えるため、特別に慎重な手続きが置かれているのです。保佐人・補助人の場合も、居住用不動産の処分について代理権が与えられているときは、同じように許可が必要になります。
そして、許可を得ずにした処分は無効です。ここは重い規定です。決済まで済ませてから無効になれば、買主の方にも取り返しのつかない迷惑がかかります。
「居住用」は、今住んでいなくても当てはまります
いちばん誤解されやすいのがここです。
「親はもう施設にいて、実家は空き家だから居住用ではない」と考えてしまいがちですが、そうではありません。次のいずれかに当たれば、居住用不動産として扱われます。
- 本人の生活の本拠として、現に居住している建物とその敷地
- 現在は住んでいないが、過去に生活の本拠だった建物とその敷地
- 現在は住んでいないが、将来、生活の本拠として利用する予定の建物とその敷地
施設を出たときに戻る先になる家も含まれます。親御さんが長く暮らしてきた実家は、ほとんどの場合これに当たると考えたほうが安全です。
判断に迷う場合は、自己判断せず家庭裁判所に確認してください。許可が要らないと思い込んで進めることが、いちばん危険です。
許可の対象になるのは売却だけではありません
売却のほか、賃貸に出すこと、賃貸借契約を解除すること、抵当権を設定すること、建物を取り壊すことなども対象になります。「貸すだけなら許可は要らないだろう」というのも誤解です。
家庭裁判所は何を見ているのか
許可を出すかどうかの判断では、おおむね次の点が総合的に考慮されるとされています。
- 売却の必要性。なぜ今、売らなければならないのか。施設費用や医療費の資金が必要である、といった事情です。
- 本人の生活状況と意向。本人が戻る可能性はあるか。本人の気持ちはどうか。
- 売却の条件。価格が相場から離れていないか、条件が不利になっていないか。
- 売却代金の保管方法。売ったお金をどう管理し、何に使うのか。
- 親族の態度。ご兄弟など、ほかの親族が反対していないか。
このうち1・3・5は、事前の準備でだいぶ変わる部分です。特に5は、兄弟姉妹の間で話がついていないまま申し立てると、余計な時間がかかります。先に家族で合意しておくことが、結局はいちばんの近道です。
必要な書類
売却の場合に必要になる主な書類です。家庭裁判所によって扱いが異なることがあるため、岡山家庭裁判所でご確認ください。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 居住用不動産処分許可の申立書 | 裁判所の書式があります |
| 不動産の全部事項証明書 | 法務局で取得します |
| 固定資産評価証明書 | 市役所で取得します |
| 売買契約書の案(コピー) | 契約前の段階で案を提出します |
| 詳細な査定書 | 価格の妥当性を示すものです。相場より低い価格で売る場合は、その理由の説明書も必要になります |
| 処分の必要性を説明する資料 | 施設費用の請求書、収支の見通しなど |
| 後見監督人の意見書 | 監督人が選任されている場合 |
査定書は、この手続きの要のひとつです。「詳細な」と書かれているとおり、1行の金額だけでは足りません。根拠のある査定書をご用意するのは、当社が直接お手伝いできる部分です。
売買契約は「許可が下りなければ白紙」で結びます
順番が独特なので、ここは丁寧に書きます。
家庭裁判所は、売買契約書の案を見て判断します。つまり、買主が決まり、条件が固まっていないと申立てができません。一方で、許可が出る前に契約を確定させてしまうと、許可が下りなかったときに困ります。
そこで実務では、「家庭裁判所の許可が得られなかったときは、この契約は効力を生じない」という停止条件を付けて契約を結びます。こうしておけば、万一許可が出なくても、買主・売主どちらも白紙に戻せます。
家庭裁判所の案内でも、「取引の交渉を開始し、取引が成立する一歩前の段階で申し立ててください」と説明されています。早すぎても遅すぎても、うまくいきません。
買主には先に事情を伝えてください
これは仲介する側から強くお願いしたい点です。
買主の方にとっては、契約しても1か月近く決済ができず、しかも白紙に戻る可能性がある、という取引になります。住宅ローンの審査や引越しの予定にも影響します。
ですから、募集の段階から「成年後見の手続き中で、家庭裁判所の許可が条件になる」ことを明示して、理解してくれる買主を探します。後から伝えると、それまでの時間が無駄になります。当社では、この説明を最初にしたうえで買主を探しています。
なお、後見人は親御さんの家の状態を直接知らないことがほとんどです。そのため実務上は、建物の不具合について後見人が責任を負わない旨の特約を入れ、その内容を買主にきちんと説明したうえで契約するのが一般的です。
費用の目安
後見等開始の申立てにかかる費用です。岡山家庭裁判所の手引きに記載されている額をもとにしています。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 郵便切手 | 後見・保佐・補助で異なります(おおむね3,500円〜4,500円程度) |
| 医師の診断書 | 医療機関によります |
| 鑑定費用 | 必要になった場合、約5万円 |
鑑定については補足があります。岡山家庭裁判所の手引きでは「原則、医師による鑑定を申立後に行います。事案によっては、鑑定を省略することもあります」とされています。一方、全国の統計(令和6年)で実際に鑑定が行われたのは約3.8%でした。多くのケースでは診断書で足りている、ということです。ただし岡山家庭裁判所がどう運用しているかは事案によりますので、費用としては見込んでおくほうが安全です。
居住用不動産処分許可の申立てには、別に収入印紙800円と郵便切手が必要です。
これらのほかに、司法書士や弁護士に申立てを依頼する場合はその費用が、売却時には仲介手数料と登記費用がかかります。
岡山家庭裁判所の窓口
申立ての手続きは、親御さんのお住まいの地域を管轄する家庭裁判所で行います。
| 窓口 | 所在地 | 電話 |
|---|---|---|
| 岡山家庭裁判所(本庁) | 岡山市北区南方一丁目8番42号 | 086-222-6771 |
| 岡山家庭裁判所 倉敷支部 | 倉敷市幸町3番33号 | 086-422-1393 |
| 岡山市成年後見センター | 岡山市北区鹿田町一丁目1番1号 岡山市保健福祉会館9階 | 086-225-4066(相談無料) |
このほか玉野・児島・玉島・笠岡・新見・津山に出張所があります。書式と手引きは裁判所のウェブサイトから入手できます。手続きそのものについて相談したい場合は、岡山市成年後見センターでも受け付けており、申立書の書き方の支援も行っています。
当社にできること・できないこと
この手続きの中で、当社がお手伝いできるのは次の部分です。
後見人が決まる前から、実家の査定をお出しし、売れる見込みと価格帯をお伝えします。ここを先に進めておくと、全体が短くなります。空き家の間の管理や、庭木・郵便物の対応もご相談いただけます。
後見人が決まった後は、家庭裁判所に提出する詳細な査定書の作成、買主の募集(許可が条件であることを明示したうえで)、売買契約書の案の作成、決済の段取りを担当します。
一方、後見の申立てそのもの、居住用不動産処分許可の申立て、家庭裁判所への説明は、当社では行えません。これらは後見人と、その代理をする司法書士・弁護士の役割です。ご希望があれば、対応している司法書士をご紹介します。
よくあるご質問
後見人が選ばれれば、すぐに親の家を売れますか。
すぐには売れません。親御さんが住んでいた家を売るには、家庭裁判所の「居住用不動産処分許可」が別に必要です(民法859条の3)。許可を得ずにした処分は無効とされます。許可の審判までは、おおむね3〜4週間が実務上の目安です。
親はもう施設に入っていて実家は空き家です。それでも「居住用不動産」ですか。
多くの場合、居住用不動産に当たります。現に居住している建物だけでなく、過去に生活の本拠だった建物、将来生活の本拠として利用する予定の建物も含まれるためです。施設を出たときに戻る先になる家も対象です。判断に迷う場合は自己判断せず、家庭裁判所にご確認ください。
後見の申立てから家が売れるまで、どれくらいかかりますか。
順調に進んでも、おおむね半年前後が目安です。診断書の準備に2週間〜1か月、申立てから審判までおおむね1か月〜2か月(全国では2か月以内に終わったものが約72.0%)、審判の確定に2週間、後見の登記に数週間、買主を探す期間、そして居住用不動産処分許可の審判におおむね3〜4週間かかります。
子どもである自分が後見人になれますか。
候補者として名前を挙げることはできますが、決めるのは家庭裁判所です。最高裁判所の統計(令和6年)では、成年後見人等に選任された方のうち親族は約17.1%で、残りの約82.9%は司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門職でした。8割以上のケースで親族以外が選ばれている、というのが現状です。
許可が出る前に売買契約を結んでもよいのですか。
実務では、「家庭裁判所の許可が得られなかったときはこの契約は効力を生じない」という停止条件を付けて契約します。家庭裁判所は売買契約書の案を見て判断するため、買主と条件が決まっていないと申立てができないからです。家庭裁判所の案内でも「取引が成立する一歩前の段階で申し立ててください」と説明されています。
後見人が決まる前にできることはありますか。
査定を取り、相場と売れる見込みを把握しておくことができます。家庭裁判所に提出する査定書は「詳細な」ものが求められるため、早めに準備しておくと申立ての段階でそのまま使えます。売却の必要性を示す資料(施設費用の請求書など)をそろえておくことや、ご兄弟の間で先に合意しておくことも、審理を早める助けになります。
売却が終わったら成年後見は終わりますか。
終わりません。法定後見は原則としてご本人が亡くなるまで続きます。専門職が後見人になっている場合、その方への報酬も継続して親御さんの財産から支払われます。家を売るためだけに使う制度ではない、という点は申立ての前に知っておいてください。
後見人が決まる前から、進められることがあります
実家の査定、売れる見込みの確認、家庭裁判所に出す詳細な査定書の作成、許可が条件であることを理解してくれる買主の募集まで、住まいの側はすべてお手伝いできます。先に準備しておくと、全体が1〜2か月短くなることがあります。
※後見の申立て、居住用不動産処分許可の申立て、家庭裁判所への説明は当社では行えません。司法書士・弁護士をご紹介します。手続きの一般的な相談は岡山市成年後見センター(086-225-4066、無料)、書式は岡山家庭裁判所(086-222-6771)でご確認ください。
待つ時間が長いことは、事前に知っておくだけで、だいぶ楽になります。この手続きは、待たされているのではなく、親御さんの財産が勝手に処分されないよう守られている時間です。とはいえ、施設費用の心配を抱えながら半年待つのは、簡単なことではありません。いま全体のどこにいるのか、あと何が残っているのか、途中でも構いませんのでお尋ねください。一緒に整理します。
最終更新日:2026年9月23日
確認先:岡山家庭裁判所(成年後見申立ての手引き、書式)、最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和6年1月〜12月)」、岡山市成年後見センター、公益社団法人全日本不動産協会。制度・費用・期間は変わることがあります。最新はそれぞれの公式ページでご確認ください。
(この記事は一般的な情報の整理です。個別の申立てが認められるかどうか、必要な書類の判断は当社では行えません。司法書士・弁護士、または岡山家庭裁判所にご確認ください。)
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