施設の費用のために売りたいのに、弟が『実家は残すべきだ』と言って聞かないんです」
母のそばにいる姉が、母の気持ちを勝手に代弁しているように感じます」
県外にいる自分には口を出す権利がないのか、と悩んでいます」
親御さんが施設に入られた後、実家のことで兄弟姉妹の意見が分かれるのは、珍しいことではありません。思い出のある家だからこそ、それぞれに譲れない気持ちがあります。
話し合いを始める前に、まず「誰に決める権利があるのか」を整理しておくと、議論の土台がそろいます。
親御さんがご存命で、実家が親御さんの名義であれば、売るかどうかを決める権利は親御さんにあります。 兄弟姉妹は、将来の相続人になる予定の立場であって、親御さんがご存命の間は実家について法的な決定権を持っていません。親御さんの判断能力が低下している場合は、家庭裁判所が選んだ成年後見人が、家庭裁判所の許可を得て判断します。ただし、兄弟姉妹の意見を無視して進めると、あとで契約の有効性を争われるなど、かえって親御さんを困らせることがあります。権利の所在を知ったうえで、手続きを透明にして話し合うことが、いちばんの近道です。
決める権利は誰にあるか|状況別の整理
まず、状況ごとに「決める人」を整理します。
| 実家の状況 | 売るかどうかを決める人 | 兄弟姉妹の立場 |
|---|---|---|
| 親御さんの名義で、親御さんに判断能力がある | 親御さん | 意見を伝えることはできるが、同意は不要 |
| 親御さんの名義で、判断能力が低下している | 成年後見人(住んでいた家を売るには家庭裁判所の許可が必要) | 家庭裁判所の審理で、親族の意見が考慮されることがある |
| 家族信託を設定している | 受託者(信託契約で定めた範囲で) | 契約の内容による |
| 任意後見契約があり、効力が生じている | 任意後見人(契約で定めた範囲で) | 契約の内容による |
| 親御さんとお子さんの共有名義 | 共有者全員の同意が必要 | 共有者であれば同意が必要 |
| 親御さんが亡くなった後 | 相続人全員(遺産分割) | 相続人として同意が必要 |
表のいちばん下、親御さんが亡くなった後は話がまったく変わります。 相続が始まると、兄弟姉妹は相続人として権利を持ち、売るには原則として全員の合意が必要になります。相続後の話は、「相続した空き家、兄弟の同意なしに売れるのか」「兄弟で相続した実家をどうする?」で詳しく書いています。
この記事では、表の上の段、親御さんがご存命の間の話を扱います。
「相続人になる予定」は、まだ権利ではありません
ここは誤解の多いところなので、はっきり書きます。
相続は、親御さんが亡くなったときに始まります。それまでの間、お子さんは「将来、相続人になる予定の人」(推定相続人)であって、親御さんの財産について権利を持っているわけではありません。
ですから、親御さんに判断能力があり、ご自身の意思で「施設費用のために売りたい」と決めているなら、兄弟姉妹の誰かが反対していても、親御さんは売ることができます。 逆に、親御さんが「まだ売りたくない」と言っているなら、兄弟姉妹が全員「売るべきだ」と考えていても、売ることはできません。
決めるのは親御さんです。 兄弟姉妹が話し合って決めることではない、という点を、最初に全員で確認しておくと、議論がかみ合いやすくなります。
それでも、兄弟姉妹の意見が大事な理由
では、兄弟姉妹の意見は無視してよいのか。そうではありません。理由は3つあります。
理由1|あとで、契約の有効性を争われることがある
親御さんが売ったあとで、反対していた兄弟姉妹が「あのとき母は判断できる状態ではなかった」と主張することがあります。意思能力を欠いた状態の契約は無効とされるため、争いになれば、買主の方も巻き込むことになります。
これを防ぐには、親御さんの意思を、第三者を交えて確認しておくことが大切です(後ほど書きます)。
理由2|成年後見の審理では、親族の意見が考慮される
親御さんの判断能力が低下していて成年後見人が売る場合、住んでいた家の売却には家庭裁判所の許可が必要です。その審理では、売却の必要性や本人の意向とあわせて、親族の態度も考慮されるとされています。兄弟姉妹が強く反対していると、手続きに時間がかかることがあります。
理由3|親御さんの気持ちを、いちばん知っているのは家族だから
法的な権利とは別に、親御さんの気持ちを知る手がかりを持っているのは、兄弟姉妹です。「母は昔、この家は誰かに住んでほしいと言っていた」「父は施設費用のことを気にしていた」。そうした記憶を持ち寄ることは、親御さんの意思を確かめる助けになります。
権利がないから黙っていてほしい、ではなく、権利がないからこそ、親御さんのための材料として意見を出し合う。 そういう話し合いができると理想的です。
よくある4つの対立と、整理の糸口
実家をめぐる兄弟姉妹の意見の違いは、多くの場合、次の4つのどれかです。
| 対立 | よくある声 | 整理の糸口 |
|---|---|---|
| 売りたい/残したい | 「施設費用が足りない」「思い出の家を手放したくない」 | 残した場合の毎月の費用と、施設費用の見通しを、数字で並べる |
| 今売りたい/後にしたい | 「早く決めたい」「母が元気なうちは」 | 期限が2つあることを共有する。判断能力と、税金の特例の期限(入所から約3年) |
| 自分が買い取りたい | 「他人に売るくらいなら自分が」 | 親族間の売買は税金の特例が使えず、価格の決め方によっては、ほかの兄弟姉妹との公平の問題になる |
| 兄弟姉妹の一人が住んでいる | 「兄が住んでいるから売れない」 | 住んでいる経緯や約束によって扱いが変わる。弁護士への相談が必要 |
「自分が買い取りたい」という場合
気持ちはよく分かります。ただ、2つ注意があります。
ひとつは税金です。親御さんがご自身の家を売るときの3,000万円の特別控除は、親子や夫婦など特別の関係がある人に売った場合は使えません。 他人に売る場合と比べて、親御さんの税負担が大きくなることがあります。
もうひとつは公平さです。相場より安い価格で買い取ると、ほかの兄弟姉妹から見て不公平に感じられ、将来の相続のときに問題になることがあります。第三者の査定を取り、その価格を全員に示したうえで決めるのが安全です。税金と相続への影響は、税理士と弁護士に確認してください。
「兄弟姉妹の一人が住んでいる」という場合
親御さんと同居していたお子さんが、親御さんの入所後もそのまま実家に住んでいる、ということはよくあります。
親御さん名義の家に家賃を払わずに住んでいる場合、法律上は親御さんから借りている形になりますが、いつまで住めるかは、住み始めた経緯や親御さんとの約束によって扱いが変わります。 売るには住んでいる方に退去していただく必要があり、ここで対立が深くなりがちです。
この場合は、早めに弁護士に相談してください。当社が兄弟姉妹の間に入って退去の交渉をすることはできません。
親御さんの意思を、どう確かめるか
争いを防ぐいちばんの方法は、親御さんの意思を、誰から見ても分かる形で確かめることです。
- 親御さんを交えて話す。 兄弟姉妹だけで決めずに、親御さんご本人に直接聞く場をつくります。施設の面会室を借りられることもあります
- 兄弟姉妹全員が同じ場で聞く。 「姉だけが聞いた」「弟だけが聞いた」という形は、あとで疑いのもとになります。県外の方はビデオ通話で参加できます
- 第三者に同席してもらう。 司法書士、ケアマネジャー、施設の相談員など。売却の段階では、司法書士がご本人に面談して意思を確認します
- 記録を残す。 日付、参加者、親御さんが話したことをメモに残し、全員で共有します
- 判断能力に不安があれば、先に専門家へ。 主治医の意見を聞く、司法書士や岡山市成年後見センター(086-225-4066、相談無料)に相談する
親御さんの体調や気持ちに配慮して、一度で結論を出そうとしないことも大切です。
話し合いの前に、数字をそろえる
兄弟姉妹の話し合いがこじれる原因のひとつは、それぞれが違う数字を頭に置いていることです。「この家は2,000万円で売れるはず」「いや、古いから500万円だろう」。これでは話がかみ合いません。
話し合いの前に、次の数字を1枚の紙にまとめて、全員に同じものを配ってください。
| 数字 | どこで分かるか |
|---|---|
| 実家がいくらで売れそうか | 不動産会社の査定(当社でお出しします) |
| 置いておいた場合の毎月・毎年の費用 | 固定資産税、火災保険、光熱費、管理費など |
| 施設費用の毎月の自己負担と、今後の見通し | 施設の請求書、負担限度額認定の有無 |
| 親御さんの年金と預貯金 | 親御さんの同意のもとで |
| 税金の特例の期限 | 入所した日から数えて約3年(その年の12月31日まで) |
当社は、査定の結果を兄弟姉妹の全員に同じ内容でお伝えします。 誰か一人にだけ違う説明をすることはありません。
疑いが生じたとき|成年後見の申立ては、兄弟姉妹の一人でもできます
「母はもう判断できる状態ではないのに、姉が売ろうとしている」。そう感じたときに知っておいていただきたいことがあります。
成年後見の申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族などができます。兄弟姉妹の一人でも申し立てることができます。成年後見人が選ばれれば、以後の財産の管理は後見人が行い、住んでいた家を売るには家庭裁判所の許可が必要になります。
ただし、慎重に考えていただきたい点があります。申立ては、いったん行うと、家庭裁判所の許可がなければ取り下げることができません。 また、成年後見は原則として親御さんが亡くなるまで続き、後見人に誰が選ばれるかは家庭裁判所が決めます。兄弟姉妹の対立を解消する手段として使うものではなく、親御さんの財産と生活を守るための制度です。申し立てる前に、岡山市成年後見センターや司法書士に相談してください。
話し合いで決まらないとき
兄弟姉妹だけではどうしても話がまとまらない場合は、第三者の力を借ります。
弁護士に相談する。 法的な立場の整理、住んでいる兄弟姉妹の退去、買い取りの公平さなど、個別の事情に応じた助言を受けられます。費用が心配な場合は、法テラスの無料法律相談も利用できます(収入などの条件があります)。
家庭裁判所の「親族関係調整調停」を使う。 親族の間で、感情的な対立や親などの財産の管理をめぐる紛争が生じ、関係が円満でなくなった場合に、家庭裁判所の調停で話し合う手続きです。調停委員が間に入り、当事者の話を聞きながら解決を目指します。申立ての費用は収入印紙1,200円と郵便切手で、申立て先は原則として相手方の住所地の家庭裁判所です。
調停は、親御さんがご存命の間の、親の財産の管理をめぐる対立にも使える手続きです。相続が始まったあとの遺産分割調停とは別のものです。
当社の立場
最後に、当社がこの場面でどういう立場で関わるかを書いておきます。
当社の依頼者は、実家の所有者である親御さん(または成年後見人)です。兄弟姉妹のどなたかからご相談をいただいた場合も、売却の手続きは所有者の意思にもとづいて進めます。兄弟姉妹のどちらかの味方をすることはありません。
当社ができるのは、査定の結果を全員に同じ内容でお伝えすること、置いておく場合・貸す場合・売る場合の数字を並べてお見せすること、話し合いの場で数字の説明をすること、そして親御さんの意思が確認できたうえでの売却の仲介です。
一方、兄弟姉妹の間の交渉の代理、法的な判断、親御さんの判断能力についての判断は行えません。 弁護士・司法書士・医師の領域です。ご希望があれば、専門家をご紹介します。
よくあるご質問
親が施設にいる間、実家を売るかどうかは誰が決めるのですか。
実家が親御さんの名義で、親御さんに判断能力があれば、決めるのは親御さんです。兄弟姉妹は将来の相続人になる予定の立場で、親御さんがご存命の間は実家について法的な決定権を持っていません。親御さんの判断能力が低下している場合は、家庭裁判所が選んだ成年後見人が、家庭裁判所の許可を得て判断します。
兄弟が反対していても、親は実家を売れますか。
親御さんに判断能力があり、ご自身の意思で売ると決めているなら、兄弟姉妹の同意がなくても売ることはできます。ただし、あとで「判断できる状態ではなかった」と契約の有効性を争われることがあるため、親御さんの意思は兄弟姉妹全員が同じ場で、第三者を交えて確かめておくことをおすすめします。
兄弟の一人が親の気持ちを勝手に代弁しているように感じます。どうすればよいですか。
兄弟姉妹全員が同じ場で、親御さんご本人から直接話を聞く機会をつくってください。県外の方はビデオ通話で参加できます。司法書士やケアマネジャーなど第三者に同席してもらい、話した内容を記録して共有すると、あとの疑いを防げます。
自分が親から実家を買い取ることはできますか。
できますが、注意が2つあります。親子間の売買では、親御さんが使える3,000万円の特別控除が使えません。また、相場より安い価格で買い取ると、ほかの兄弟姉妹との公平の問題になり、将来の相続で問題になることがあります。第三者の査定を取り、その価格を全員に示したうえで、税理士と弁護士に確認してください。
兄弟の一人が実家に住んでいて、売れません。
親御さん名義の家に家賃を払わずに住んでいる場合、いつまで住めるかは、住み始めた経緯や親御さんとの約束によって扱いが変わります。退去をめぐって対立が深くなりやすいので、早めに弁護士にご相談ください。当社が退去の交渉をすることはできません。
親の判断能力に疑問があります。兄弟の一人でも成年後見の申立てはできますか。
できます。成年後見の申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族などが行えます。ただし、申立ては家庭裁判所の許可がなければ取り下げられず、後見は原則として親御さんが亡くなるまで続き、後見人に誰が選ばれるかは家庭裁判所が決めます。申し立てる前に、岡山市成年後見センター(086-225-4066、相談無料)や司法書士にご相談ください。
話し合いで決まらないときは、どうすればよいですか。
弁護士に相談するほか、家庭裁判所の「親族関係調整調停」を利用できます。親族の間で、親などの財産の管理をめぐる紛争が生じた場合に、調停委員を交えて話し合う手続きです。申立ての費用は収入印紙1,200円と郵便切手で、申立て先は原則として相手方の住所地の家庭裁判所です。
不動産会社は、兄弟のどちらの味方になるのですか。
当社はどちらの味方もしません。依頼者は実家の所有者である親御さん(または成年後見人)です。査定の結果は兄弟姉妹の全員に同じ内容でお伝えし、交渉の代理や法的な判断は行いません。
兄弟姉妹の全員に、同じ数字をお出しします
査定の結果、置いておく場合・貸す場合・売る場合の費用を、1枚にまとめて全員に同じ内容でお伝えします。当社は兄弟姉妹のどちらの味方もしません。依頼者は所有者である親御さんです。
※兄弟姉妹の間の交渉の代理、法的な判断、親御さんの判断能力についての判断は当社では行えません。弁護士・司法書士をご紹介します。
意見が分かれるのは、それぞれが親御さんと実家を大切に思っているからです。 売りたい人も、残したい人も、親御さんのためを考えていることに変わりはありません。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているということでもありません。決めるのは親御さんです。兄弟姉妹にできるのは、親御さんが決めやすいように、同じ数字と同じ情報をそろえることだと思います。その準備なら、当社がお手伝いできます。
最終更新日:2026年9月24日
確認先:裁判所(親族関係調整調停、成年後見制度)、岡山家庭裁判所、岡山市成年後見センター、国税庁(マイホームを売ったときの特例)、公益社団法人全日本不動産協会。制度は変わることがあります。最新はそれぞれの公式ページでご確認ください。
(この記事は一般的な情報の整理です。個別の事情についての法的な判断、兄弟姉妹の間の交渉の代理は当社では行えません。弁護士・司法書士にご相談ください。)
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