「売るか、貸すか」
空き家を持っている方から、いちばん多くいただくご相談です。そして、いちばん答えが出ないまま止まりやすいご相談でもあります。
売れば手放してしまう。二度と戻ってこない。 貸せば残せる。でも本当に借り手がつくのか、面倒ごとが増えないか。
どちらにも理があるので、決められないのは当然だと思います。
そこでこの記事では、岡山市内の空き家を想定して、売った場合と貸した場合で「10年後に手元にいくら残るか」を実際に計算してみました。 数字を見れば、少なくとも「なんとなくの不安」で判断することはなくなるはずです。
先にお伝えしておくと、答えは物件によって逆転します。 どちらが正解とは書けません。ただ、逆転を決めるポイントはたった3つなので、そこだけ押さえていただければご自身で判断できるようになります。
結論:判断を分けるのは3つだけです
① 3,000万円の特別控除が使えるかどうか 相続した空き家を売るときに使える大きな控除があります。貸してしまうと、この控除は使えなくなります。 金額にして100万〜200万円規模の差です。ここが最大の分岐点です。
② リフォーム費用を何年で回収できるか 築古の戸建てを貸せる状態にするには、多くの場合まとまった初期投資が必要です。この投資額と家賃のバランスで、貸す価値があるかが決まります。
③ 10年後、誰が管理しているか 賃貸は10年で終わりません。ご自身が10年後も対応できるか、次の世代に引き継げるか。ここを見ないで始めると、後から苦しくなります。
以下、順番に数字で見ていきます。
まず「貸す」には初期投資がかかります
「空いているんだから、そのまま貸せばいいのでは」と思われるかもしれません。実際にはそうもいきません。長く空いていた戸建てを人に貸せる状態にするには、次のような費用がかかります。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 残置物・家財の処分 | 10万〜30万円 |
| ハウスクリーニング | 5万〜15万円 |
| 給湯器・水回り設備の交換 | 20万〜60万円 |
| 内装(クロス・床)の補修 | 30万〜80万円 |
| 雨漏り・シロアリ対応 | 0万〜100万円以上 |
| 合計の目安 | おおむね65万〜285万円 |
幅が大きいのは、建物の状態次第だからです。特に雨漏りとシロアリが見つかると一気に跳ね上がります。 ここは現地を見ないと判断できません。
一方で、家賃の目安はこうです。
岡山市内の築40年前後の戸建て:おおむね月4万〜7万円
駅からの距離、駐車場の台数、周辺の生活利便性で変わります。岡山大学の周辺や、駐車場が2台取れる物件は上振れしやすい傾向があります。
10年後の手取りを計算してみます
具体的な物件を想定して比べます。
モデルケースの前提
- 岡山市北区、昭和55年築、木造2階建て、土地150㎡
- 相続してから1年、まだ何もしていない
- 想定売却価格:1,000万円
- 想定家賃:月5万円
- 貸すために必要な初期投資:150万円
- 3,000万円の特別控除:使える状態
パターンA:いま売る
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 1,000万円 |
| 仲介手数料 | △およそ40万円 |
| 残置物処分・諸費用 | △およそ50万円 |
| 譲渡所得税・住民税 | 0円(3,000万円控除の適用により) |
| 手元に残る金額 | おおむね910万円 |
パターンB:10年貸してから売る
10年間の賃貸収支
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 家賃収入(月5万円 × 10年) | 600万円 |
| 空室・滞納の見込み(20%) | △120万円 |
| 実際の収入 | 480万円 |
| 年間経費(固定資産税・保険・管理料・修繕)約20万円 × 10年 | △200万円 |
| 所得税・住民税 | △およそ36万円 |
| 初期投資 | △150万円 |
| 10年間で手元に残る金額 | おおむね94万円 |
10年後に売却したとき
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格(築60年、土地値中心) | 800万円 |
| 仲介手数料 | △およそ33万円 |
| 諸費用 | △およそ30万円 |
| 譲渡所得税・住民税 | △およそ142万円(控除が使えないため) |
| 売却で残る金額 | おおむね595万円 |
パターンB 合計:94万円 + 595万円 = おおむね689万円
差はおおむね220万円
| 10年後の手取り | |
|---|---|
| A:いま売る | おおむね910万円 |
| B:10年貸してから売る | おおむね689万円 |
| 差 | おおむね220万円(Aが有利) |
このケースでは、売却のほうが220万円ほど多く残る計算になります。
もう一つ気づいていただきたいのが、10年間まるまる大家さんをやって、手元に残るのが94万円という点です。年あたりにすると9万円ほど。入居者募集、契約、家賃の入金確認、設備の故障対応、確定申告。それを10年続けての金額です。
「貸したほうが得だと思っていた」という方は、ここで一度立ち止まっていただきたいところです。
ただし、この結論はひっくり返ります
上の計算で最も大きいのは、譲渡所得税のおよそ142万円です。これは3,000万円の特別控除が使えなくなったことによる負担です。
では、もともとその控除が使えない物件だったらどうなるでしょうか。
たとえば相続から3年以上経っている、亡くなった親御さんと同居していた、マンションである、といったケースです。この場合、パターンAでも譲渡所得税がかかります。
| 控除が使える場合 | 控除が使えない場合 | |
|---|---|---|
| A:いま売る | おおむね910万円 | おおむね735万円 |
| B:10年貸してから売る | おおむね689万円 | おおむね689万円 |
| 差 | 220万円(A有利) | 46万円(ほぼ互角) |
控除が使えない物件なら、差はおおむね46万円まで縮まります。 ここまで来ると、金額だけで決める話ではなくなります。「家を残しておきたい」「将来子どもが使うかもしれない」といったご事情のほうが重くなってきます。
**つまり最初の分岐点は、金額でも立地でもなく「3,000万円控除が使えるかどうか」**です。ここを確認しないまま貸してしまうのが、いちばんもったいない進め方です。
なお、この控除は2027年12月31日までの売却分が対象とされています。期限のしくみは別記事で詳しく整理していますので、そちらもあわせてご覧ください。
「貸す」を選んだほうがいいケース
数字だけ見ると売却が有利なケースが多いのですが、貸したほうがいい物件もはっきりあります。
① 3,000万円控除がもう使えない 上の表のとおり、差が縮まります。この場合は他の要素で判断できます。
② 家賃が月6万円以上見込める立地 家賃が月7万円なら10年で240万円の増収になり、計算が逆転します。岡山駅周辺、岡山大学の徒歩圏、駐車場が2台以上取れる物件などが該当しやすいです。
③ 初期投資を50万円以下に抑えられる 建物の状態が良く、残置物の処分とクリーニングだけで貸せる場合です。回収期間が一気に短くなります。
④ 将来、ご家族の誰かが住む可能性がある これは金額の話ではありません。売ったら二度と戻せないというのは、他のどんな計算よりも重い要素です。可能性が少しでもあるなら、貸して残すという判断は十分に合理的です。
「売る」を選んだほうがいいケース
① 3,000万円控除の期限内にある 最も分かりやすいケースです。控除が使えるうちに動くほうが、手取りは大きくなります。
② 雨漏り・シロアリ・傾きなど、大きな不具合がある 貸すには直さなければなりません。100万〜200万円を先に投じて、それを家賃で回収するには10年以上かかります。その間に別の不具合が出れば、また支出です。
③ 相続人が複数いて、意見をまとめるのが難しい 賃貸は「持ち続ける」選択なので、共有関係が10年続きます。 その間に相続人の誰かに次の相続が起きると、権利関係はさらに複雑になります。売却して現金で分けるほうが、後々の紛争を防げることが多いです。
④ 岡山を離れて暮らしている 入居者からの連絡、設備の故障、退去立ち会い。管理会社に任せても、最終判断は所有者に来ます。遠方だと負担が大きくなりがちです。
見落とされがちな3つのコスト
① 大家業そのものの手間 家賃の入金確認、滞納の督促、設備の故障対応、退去後の原状回復、そして毎年の確定申告。管理会社に委託すればかなり軽くなりますが、ゼロにはなりません。 「修理するかどうか」「いくらまで出すか」の判断は必ずオーナーに戻ってきます。
② 賃貸中の物件は売りにくくなる 入居者がいる状態で売る場合、「オーナーチェンジ物件」として投資家向けの販売になります。自分で住みたい買主が検討できなくなるため、買い手の層が狭まり、価格も下がりやすくなります。「いつでも売れる」とは考えないほうが安全です。
③ 管理が行き届かないと税金が上がる可能性 2023年12月13日に施行された改正空家法により、市町村は特定空家になるおそれのある空き家を「管理不全空家等」として指導・勧告できるようになりました。勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が解除されるとされています。住宅用地の特例は、200㎡以下の部分で課税標準が6分の1になるものなので、外れると負担が大きく変わります。
これは「貸す」でも「売る」でもなく、決めずに放置した場合のリスクです。
維持費の内訳や年間コストの詳細は別記事にまとめていますので、そちらをご覧ください。
決められないときは、第三の選択肢もあります
ここまで読んで、それでも決めきれない方も多いと思います。それで構いません。
当面は管理だけ続けて、判断は保留する。 これも立派な選択です。月に一度の巡回で建物の劣化を抑えつつ、市況を見ながら考える。管理から売却にも賃貸にも、いつでも切り替えられます。
ただし、この選択にも期限があります。 3,000万円控除が使えるうちは、その期限だけは意識しておいてください。「あと何年使えるのか」を知ったうえでの保留と、知らないままの先送りは、まったく違います。
まとめ
- 判断を分けるのは3,000万円控除が使えるかどうか。ここで差が220万円にも46万円にもなります
- 築45年・家賃5万円のモデルケースでは、10年貸して手元に残るのはおおむね94万円。年あたり9万円ほどです
- 家賃が月6万円以上見込める、初期投資が50万円以下、控除がもう使えない、家族が将来使うかもしれない。このどれかに当てはまるなら、貸す判断は十分に合理的です
- 雨漏りやシロアリがある、相続人が複数いる、遠方に住んでいる。この場合は売却のほうが後々の負担が軽い傾向があります
- 上記の金額はいずれも目安です。税額の判断は税理士または税務署へご確認ください
最後に。空き家の話は、どうしても「損か得か」に寄っていきます。でも実際にご相談を受けていると、判断を止めているのは金額ではないことが多いです。親が暮らした家を自分の代で手放していいのか。 その気持ちは、計算では割り切れません。
だから、急いで決めなくて大丈夫です。ただ「いま、どの選択肢がいくらになるのか」だけは知っておいてください。それを知ったうえでゆっくり考えるほうが、後悔は少ないと思います。
4. よくあるご質問
Q1. うちの物件だと、実際いくらで貸せますか。 建物の状態、駐車場の有無、最寄りの生活施設で変わります。岡山市内の築40年前後の戸建てで、おおむね月4万〜7万円が目安です。写真を数枚お送りいただければ、おおよその想定家賃と、貸すために必要な工事の見当をお伝えできます。
Q2. リフォームせずに、そのまま貸すことはできますか。 建物の状態によっては可能です。残置物の処分とクリーニングだけで借り手がつくケースもあります。ただし給湯器が壊れている、雨漏りがある、といった場合は入居後にトラブルになりやすいので、先に直しておくほうが結果的に安く済みます。
Q3. 貸したあとで、やっぱり売りたくなったら売れますか。 売れますが、入居者がいる状態では「オーナーチェンジ物件」となり、自分で住みたい買主が検討できなくなります。買い手の層が狭くなるぶん、価格は下がりやすくなります。定期借家契約にしておくなど、出口を意識した契約の組み方もありますので、貸す前にご相談ください。
Q4. 3,000万円控除は、貸したら本当に使えなくなりますか。 相続してから売るまでの間に、事業・貸付け・居住に使われた場合は対象外とされています。「短期間だけ貸した」場合でも影響する可能性がありますので、貸す前に必ずご確認ください。 判断は税務署または税理士にご相談いただく必要があります。
Q5. 賃貸に出すと確定申告が必要ですか。 家賃収入は不動産所得となり、原則として確定申告が必要です。なお、相続した家を賃貸に転用する場合の減価償却は、購入した中古物件とは計算方法が異なります。実際の金額の算定は税理士にご確認ください。
Q6. 遠方に住んでいますが、貸すことはできますか。 管理会社に委託すれば可能です。ただし修繕の可否や金額の判断はオーナーに戻ってきます。「任せきりにはできない」という前提で考えておくほうが安心です。
Q7. 兄弟の共有名義です。貸せますか。 賃貸に出すこと自体は可能ですが、共有者全員の合意が必要になります。また、家賃も持分に応じて分けることになり、確定申告もそれぞれ必要です。共有のまま10年運用するのは、実務的には負担が大きいのが正直なところです。
Q8. まだどちらとも決めていません。相談だけでもいいですか。 むしろその段階が一番お役に立てます。「売った場合」「貸した場合」「管理を続けた場合」の3つを数字で並べるだけでも、判断材料になります。売却をお勧めすることが目的のご相談ではありません。持ち続けたほうが良ければ、そうお伝えします。
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