空き家にしておくと傷むので、誰かに住んでもらえないかと思って」
売るのは親がまだ元気なうちは気が引けます。でも家賃が入れば施設費用の足しになる」
名義を変えないと貸せないのでしょうか」
親御さんが施設に入られた後、「売る」より先に「貸す」を考える方は少なくありません。親御さんがご存命のうちに家を手放すことに、ためらいがあるのは自然なことです。
結論から言えば、親名義のまま貸すことはできます。 ただ、貸す前に知っておいていただきたいことがいくつかあります。
施設に入った親御さんの実家は、名義を変えずに貸すことができます。貸主は親御さんで、お子さんが代理で手続きを進めることもできます。ただし、次の3点を貸す前に確認してください。①親御さんが契約できる状態か。 成年後見が始まっている場合は、貸すことにも家庭裁判所の許可が要ります。②家賃収入は親御さんの所得になります。 住民税が課税になると、介護保険の負担限度額認定の要件から外れることがあります。③入所後に貸すと、親御さんが亡くなった後に相続人が売るときの税の特例が使えなくなります。 貸すのであれば、期間を区切れる「定期借家契約」を選ぶことをおすすめします。
貸せるかどうかは、3つの条件で決まります
| 条件 | 確認すること | 詳しくは |
|---|---|---|
| ① 人の条件 | 貸主である親御さんが契約できる状態か | 次の章 |
| ② 家の条件 | 人に貸せる状態か(家財・設備・修繕) | 「家が貸せる状態か」の章 |
| ③ お金と税の条件 | 家賃収入と費用、介護保険、税の特例への影響 | 「お金の面」「税金の分かれ道」の章 |
このうち①と③は、親御さんが施設にいる場合に特有の論点です。順に見ていきます。
条件1|貸主は親御さんです
名義が親御さんのままなので、賃貸借契約の貸主は親御さんになります。
親御さんが契約できる状態なら
親御さんご本人が契約するか、お子さんが委任状を受けて代理で手続きを進めます。入居者募集、契約の締結、家賃の受け取り、管理会社との契約など、何を任せるのかを具体的に書いた委任状を用意します。
実務では、管理会社に管理を委託し、その管理委託契約を親御さんと結ぶ形がいちばん多くなります。この場合も、委託者は親御さんです。
判断能力に不安がある場合
賃貸借契約も、売買と同じく法律上の契約です。親御さんが契約の内容を理解できない状態であれば、有効に契約を結べません。
その場合は成年後見の手続きが必要になります。そして注意が必要なのは、成年後見人が親御さんの住んでいた家を貸す場合にも、家庭裁判所の許可(居住用不動産処分許可)が必要だということです。この許可は売却だけでなく、賃貸借契約の締結や解除も対象になっています。
「売るわけではないから許可は要らないだろう」というのは誤解です。後見が始まっている場合は、貸す前に後見人と家庭裁判所に確認してください。手続きの流れは別の記事で詳しく書いています。
条件2|家が貸せる状態か
親御さんが長く住まれた家を人に貸すには、次のような準備が要ります。
家財の片付け。 家財が残ったままでは、基本的に貸せません。思い出の品を一部屋にまとめて鍵をかけ、残りを貸すという方法を考える方もいますが、入居者とのトラブルになりやすく、おすすめしにくい方法です。
設備と修繕。 給湯器、水回り、屋根や外壁。貸したあとに設備が壊れた場合、直す義務は貸主である親御さんにあります。 古い設備が多い家では、貸した後の修繕費が家賃収入を上回ることもあります。
建物の古さ。 1981年(昭和56年)5月以前に建築確認を受けた旧耐震基準の建物は、借り手が付きにくかったり、耐震の説明が求められたりします。
どこまで手を入れるかは、家賃の見込みと費用の兼ね合いで決めます。リフォームをせずに貸す方法や、貸せる状態かどうかの判断は、空き家を貸す場合の記事で詳しく書いています。
条件3|お金の面で割に合うか
家賃が入るからといって、そのまま施設費用の足しになるとは限りません。
| 入ってくるお金 | 出ていくお金 |
|---|---|
| 家賃 | 管理会社への管理料 |
| 修繕費(設備の故障、退去時の修繕など) | |
| 固定資産税・都市計画税 | |
| 火災保険(貸家用に切り替え) | |
| 入居者が決まるまでの広告料など |
そしてもうひとつ、見落とされやすい点があります。
家賃収入は、親御さんの所得になります
家賃から経費を引いた残りは、親御さんの不動産所得になります。確定申告も親御さんの名義で行います。
年金に不動産所得が加わると、住民税が非課税から課税に変わることがあります。そうなると、施設の居住費と食費を軽減する介護保険の負担限度額認定の要件(本人と世帯全員が市民税非課税であること)から外れてしまいます。介護保険料の段階や、高額介護サービス費の上限が変わることもあります。
月に数万円の家賃が入っても、施設の自己負担がそれ以上に増えることが起こりえます。負担限度額認定を受けている場合は、貸す前に、家賃収入が入ったときに毎月の負担がどう変わるかを、施設と岡山市介護保険課 資格給付係(086-803-1241)に確認してください。負担限度額認定の仕組みは、施設費用と売却のタイミングの記事で詳しく書いています。
税金の分かれ道|貸すと、2つの特例で扱いが正反対になります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
自宅を売るときの3,000万円の特別控除には、誰が売るかによって2つの種類があります。そして、入所後に貸したときの扱いが、正反対になります。
| 親御さんご自身が売る場合 | 親御さんが亡くなった後、相続人が売る場合 | |
|---|---|---|
| 使う特例 | 居住用財産を売ったときの3,000万円の特別控除 | 相続した空き家を売ったときの特例 |
| 入所後に貸した場合 | 使えます(期限内に売れば) | 使えなくなります |
| 期限 | 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで | 別の期限があります |
親御さんご自身が売る場合|貸していても期限内なら使えます
親御さんが売主として売る場合の3,000万円の特別控除は、住まなくなった後に貸していても、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば使えます。期限は「貸し始めた日」ではなく「住まなくなった日」、つまり施設に入った日から数えます。
ただし、入居者がいる状態では売りにくく、価格も下がりやすくなります。期限内に空いた状態で売れるかどうかが、実務上の分かれ目です(この後の「定期借家」の章で書きます)。
相続人が売る場合|入所後に貸すと使えなくなります
親御さんが亡くなった後、相続したお子さんが実家を売るときには「相続した空き家を売ったときの特例」があります。親御さんが老人ホームなどに入所していた場合も、一定の要件を満たせば対象になります。
その要件のひとつが、入所後、その家が事業や貸付け、親御さん以外の人の居住に使われていないことです。
つまり、親御さんが施設に入った後に実家を貸すと、相続後にこの特例は使えなくなります。 「空き家のままでは傷むから」と善意で貸したことが、将来の税額に大きく響く可能性があるということです。
この特例のほかの要件(建物の耐震性や取壊し、相続人の数による控除額の違い、適用期限など)は、相続後の売却に関する記事で扱っています。貸す前に、どちらの特例を使う可能性が高いのかを税理士に確認してください。 親御さんがご存命のうちに売るのか、相続後に売ることになりそうなのか。それによって、貸すことの意味が変わります。相続後に売るか貸すかの確認項目は「相続した家、売るか貸すか」で扱っています。
だから、貸すなら「定期借家」をおすすめします
ここまでの話をまとめると、施設に入った親御さんの家を貸すときには、次の3つを残しておきたいことになります。
- 親御さんが戻る可能性
- 3年の期限内に、空いた状態で売る選択肢
- 状況が変わったときに、貸すのをやめる選択肢
これを満たしやすいのが、定期借家契約(定期建物賃貸借)です。
| 普通借家契約 | 定期借家契約 | |
|---|---|---|
| 契約の更新 | 原則として更新されます | 更新がなく、期間満了で終わります |
| 貸主からの解約・更新拒絶 | 正当な事由が必要で、簡単には認められません | 期間満了で終了します(再契約は合意があれば可能) |
| 売るとき | 入居者付きのまま売ることが多く、価格が下がりやすい | 期間満了後、空いた状態で売れます |
| 家賃 | 相場どおり | 相場より低めになることがあります |
| 借り手の見つけやすさ | 見つけやすい | やや見つけにくいことがあります |
普通借家契約では、貸主の都合で退去してもらうのは簡単ではありません。「3年以内に売りたい」「親が戻るかもしれない」という事情があっても、入居者が住み続けたいと言えば、原則として契約は続きます。
定期借家契約なら、たとえば「2年」と期間を決めておけば、その期間で確実に終わります。施設に入った日から数えて3年の期限を意識しながら、その内側に賃貸期間を収める、という設計ができます。
定期借家契約の手続き
定期借家契約を有効にするには、決まった手続きが必要です。
- 契約書で結ぶこと。 書面のほか、2022年5月18日以降は電子契約でも結べます
- 事前に説明すること。 契約の前に、「更新がなく、期間満了で終わる」ことを、契約書とは別の書面で借主に交付して説明します(借主の承諾があれば電子メールなどでも可能)
- 終了の通知をすること。 期間が1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に、借主へ「期間満了で終わります」と通知します
この手続きが欠けると、普通借家契約として扱われるおそれがあります。当社が管理を受託する場合は、この手続きと終了通知の時期の管理を当社で行います。
管理の頼み方
親御さんは施設、お子さんは県外、という状況では、入居者対応を自分たちで行うのは現実的ではありません。 管理を誰かに頼むことになります。
| 方法 | 内容 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 自主管理 | 募集以外の入居者対応・家賃管理・修繕手配を自分で行う | 近くに住んでいて、時間が取れる場合 |
| 管理委託 | 入居者募集、家賃の集金、クレーム対応、修繕の手配、退去の立ち会いなどを管理会社に任せる。空室のリスクは貸主が負う | 県外にお住まいで、施設入所中の親の家を貸す場合の一般的な形 |
| 借上げ(サブリース) | 管理会社などが家を借り上げ、転貸する。空室でも一定の賃料が入るが、受け取る賃料は相場より低くなる | 空室の不安を避けたい場合。契約条件の確認がとくに重要 |
管理委託で任せられること
- 入居者の募集と審査、契約手続き(定期借家の事前説明を含む)
- 家賃の集金と、親御さん名義の口座への送金
- 入居中の問い合わせ・トラブル対応
- 設備が故障したときの修繕手配(費用は貸主負担)
- 定期借家の終了通知の管理
- 退去の立ち会いと原状回復の手配
- お子さんへの定期的なご報告
家賃の振込先は、親御さん名義の口座にしてください。 貸主は親御さんなので、家賃は親御さんの収入です。お子さんの口座に入れると、お金の流れが分かりにくくなります。
管理会社の選び方や、管理委託の費用の考え方は、空き家管理の記事で詳しく書いています。
貸す前に決めておきたいこと
最後に、貸す前にご家族で話し合っておきたいことをまとめます。
- 親御さんが戻る可能性はあるか。 あるなら定期借家で期間を短めに。
- 親御さんご自身が売る可能性はあるか。 あるなら、施設に入った日から3年の期限の内側に賃貸期間を収める。
- 相続後に売ることになりそうか。 その場合、入所後に貸すと相続空き家の特例は使えなくなる。税理士に確認する。
- 負担限度額認定を受けているか。 受けているなら、家賃収入が入った後の負担を施設と岡山市介護保険課に確認する。
- 修繕の費用を出せるか。 設備の故障は貸主負担。親御さんの預貯金から出せるか。
- 家財をどうするか。 貸すなら片付けが前提になる。
- 兄弟姉妹は納得しているか。 家賃収入や修繕費の扱いを、あとで揉めないように共有しておく。
この7つを話し合うと、「貸す」がご家族にとって本当によい選択かどうかが見えてきます。貸すより、売るか、しばらく空き家として管理するほうがよい場合も、実際には少なくありません。 当社は3つの選択肢をすべて扱っているので、どれかに誘導することはしません。一般的な判断の順番は「貸す・売る・管理するの判断の順番」で、しばらく空き家として管理する場合は「空き家の遠隔管理」で詳しく書いています。
当社にできること・できないこと
当社ができるのは、家賃相場の査定、貸せる状態かどうかの確認、必要な修繕の見積もり手配、入居者の募集、定期借家契約の手続き、管理委託(家賃の集金・入居者対応・修繕手配・終了通知の管理・ご報告)、そして売る場合の仲介です。
一方、税の特例が使えるかどうかの判断、確定申告は当社では行えません。 税理士の領域です。介護保険の負担限度額認定への影響の判断も行えません。 岡山市介護保険課とケアマネジャーの領域です。親御さんの判断能力の判断、成年後見の手続きも、当社では行えません。 司法書士・弁護士・医師の領域です。ご希望があれば、それぞれの専門家をご紹介します。
よくあるご質問
施設に入った親の家を、名義を変えずに貸せますか。
貸せます。貸主は親御さんになり、お子さんが委任状を受けて代理で手続きを進めることもできます。実務では、親御さんと管理会社が管理委託契約を結び、入居者募集や家賃の集金を管理会社に任せる形が多くなります。ただし、親御さんが契約の内容を理解できる状態であることが前提です。
親に成年後見人がついています。家を貸すことはできますか。
できますが、親御さんが住んでいた家を成年後見人が貸す場合も、家庭裁判所の許可(居住用不動産処分許可)が必要です。この許可は売却だけでなく、賃貸借契約の締結や解除も対象です。貸す前に後見人と家庭裁判所に確認してください。
家を貸すと、介護保険の負担に影響はありますか。
影響することがあります。家賃から経費を引いた残りは親御さんの不動産所得になり、年金と合わせて住民税が課税になると、施設の居住費と食費を軽減する負担限度額認定の要件(市民税非課税)から外れることがあります。認定を受けている場合は、貸す前に施設と岡山市介護保険課(086-803-1241)にご確認ください。
貸している家を売るときも、3,000万円の特別控除は使えますか。
親御さんご自身が売る場合は、住まなくなった後に貸していても、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば使えます。期限は施設に入った日から数えます。ただし入居者がいる状態では売りにくく価格も下がりやすいため、期限内に空いた状態で売れるように、定期借家契約で期間を区切っておくことをおすすめします。
親が亡くなった後に相続して売る場合、貸していたことは影響しますか。
影響します。親御さんが老人ホームなどに入所していた場合の「相続した空き家を売ったときの特例」は、入所後にその家が貸付けなどに使われていないことが要件のひとつです。入所後に貸すと、この特例は使えなくなります。貸す前に、どちらの特例を使う可能性が高いかを税理士にご確認ください。
定期借家契約と普通借家契約の違いは何ですか。
定期借家契約は更新がなく、期間満了で終わる契約です。普通借家契約は原則として更新され、貸主から退去を求めるには正当な事由が必要です。親御さんが戻る可能性がある場合や、期限内に売る可能性がある場合は、期間を区切れる定期借家契約が向いています。契約書の作成、契約前の書面による説明、期間満了前の終了通知など、決まった手続きが必要です。
家賃はどの口座に振り込んでもらえばよいですか。
貸主は親御さんなので、親御さん名義の口座にしてください。家賃は親御さんの収入です。お子さんの口座に入れると、お金の流れが分かりにくくなり、ご兄弟との間で説明が難しくなることもあります。
貸すのと売るのと、どちらがよいですか。
ご家族の状況によって変わります。親御さんが戻る可能性、売る時期、相続後の見通し、介護保険の軽減を受けているか、修繕費を出せるかなどで判断が分かれます。貸すよりも、売るか、しばらく空き家として管理するほうがよい場合も少なくありません。当社は3つの選択肢をすべて扱っていますので、状況を伺ったうえで一緒に整理します。
貸すか、売るか、管理するか。3つとも扱っているので、どれにも誘導しません
家賃相場の査定、貸せる状態かどうかの確認、定期借家契約の手続き、管理委託まで。売る場合、空き家として管理する場合との比較も、数字でお出しします。
※税の特例が使えるかどうか、確定申告、介護保険制度への影響、判断能力や成年後見についての判断は当社では行えません。税理士・司法書士をご紹介します。負担限度額認定については岡山市介護保険課 資格給付係(086-803-1241)にご確認ください。
貸すことを迷うのは、親御さんの家を大事に思っているからです。 誰かに住んでもらえれば家は傷みにくくなりますし、親御さんが戻る場所を残しておきたいというお気持ちも自然なことです。ただ、貸すことには、税金や介護保険の面で見えにくい影響があります。どれが正解というものではありません。ご家族の事情に合った形を、急がずに一緒に考えていきましょう。
最終更新日:2026年9月24日
確認先:国税庁(No.3302 マイホームを売ったときの特例、No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)、法務省(定期建物賃貸借の電磁的方法による手続き)、岡山家庭裁判所(居住用不動産処分許可)、岡山市保健福祉局 高齢福祉部 介護保険課(負担限度額認定)。制度は変わることがあります。最新はそれぞれの窓口でご確認ください。
(この記事は一般的な情報の整理です。税の特例が使えるかどうか、確定申告、介護保険制度の適用、判断能力や成年後見についての判断は当社では行えません。税理士・岡山市介護保険課・司法書士などにご相談ください。)
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