「離れて暮らしていた親が亡くなって、実家を相続することになりそうだ」
「生活保護を受けているけれど、家を相続したら保護は打ち切られてしまうのだろうか」
「役所に言わないといけないのか。言ったら、どうなってしまうのか」
まず、お身内を亡くされたばかりの方には、心からお悔やみを申し上げます。気持ちの整理もつかないうちに、相続や手続きの話が押し寄せてくるのは、本当にしんどいことだと思います。
先に大事なことをお伝えします。生活保護を受けていても、実家を相続すること自体はできます。ただし、相続した財産は「資産」として扱われるため、何もしないままにしておくと、あとで大きな負担になることがあります。
この記事では、受給中に実家を相続したとき最初に確認しておきたい3つのことと、その後の流れを整理します。いま全部を理解しなくて大丈夫です。まずは「最初の一歩」だけ押さえてください。
結論|相続はできる。ただし「届け出」が何より先です
この記事全体を一言でまとめると、こうなります。
- 生活保護を受けていても、相続はできる
- 相続したことは、すぐに福祉事務所へ届け出る必要がある
- 相続した家は、今そこに住んでいるかどうかで扱いが大きく変わる
- 売却して資金ができた場合、それまで受けた保護費の一部または全部を返還することになる場合がある
- 隠すと、より重い扱いになることがある
怖く聞こえるかもしれませんが、正直に届け出て、順番どおりに進めれば、慌てるような事態にはなりにくいものです。逆に、知らないまま放っておくことがいちばん危ない。ここから順に見ていきます。
最初に確認する3つのこと
① 福祉事務所に、相続が発生したことを届け出る
これが何より先です。生活保護法第61条では、収入や生計の状況に変動があったときは、すみやかに届け出なければならないと定められています。相続によって財産を取得することは、この「変動」にあたります。
「まだ遺産分割が決まっていないから」「売れるかどうか分からないから」と待つ必要はありません。「親が亡くなり、相続が発生しそうです」と、分かった時点で伝えておくのがいちばん安全です。中身が決まっていなくても、まず一報を入れることが大切です。
ケースワーカーは、保護を打ち切るために話を聞くわけではありません。この先どう進めれば負担が少ないか、制度の中で一緒に考えてくれる相手です。
隠すと、どうなるのか
福祉事務所には、受給者の資産や収入を金融機関などに照会して調べる権限が法律で認められています(生活保護法第29条)。相続は記録に残るため、後から分かることがほとんどです。届け出をしないまま保護を受け続けていた場合、不正受給として扱われ、受けた保護費の返還に加えて、さらに上乗せした額の徴収を求められることがあります(生活保護法第78条)。正直に届け出た場合と比べて、扱いが大きく変わってしまいます。
② 相続する財産の中身と、相続人が何人いるかを確認する
次に、何を相続するのかを整理します。確認したいのは次の点です。
- 実家の名義(亡くなった親の単独名義か、共有か)
- 相続人は誰が何人いるか(兄弟姉妹はいるか)
- 預貯金など、家以外の財産はあるか
- 借金やローンなど、マイナスの財産はないか
- 実家に住宅ローンや抵当権が残っていないか
特に大事なのが相続人の人数です。兄弟がいる場合、実家を何人かで共有することになるかもしれません。共有になると、自分ひとりの判断では売れないため、その後の進め方がまったく変わってきます(後ほど詳しく説明します)。
登記の状況は、法務局で登記事項証明書を取れば確認できます。分からなければ、福祉事務所や不動産会社に相談しながら確認していけば大丈夫です。
③ その家に「今、住んでいるか」を確認する
3つめは、相続する実家と、あなたの今の暮らしとの関係です。ここで扱いが大きく分かれます。
パターンA|親と同居していた実家を相続し、今もそこに住んでいる
相続した家が、今の生活の場そのものである場合です。現に住んでいる家屋とその敷地は、処分価値が利用価値に比べて著しく大きくない限り、保有が認められるという考え方があります。資産価値が高すぎる家でなければ、住み続けながら保護を受けられる可能性があります。
パターンB|離れて暮らしていた実家を相続し、自分は別の部屋に住んでいる
相続した実家が、自分の生活の場ではない場合です。住んでいない不動産は、生活に必要な資産とはみなされにくく、売却して生活費に充てるよう求められるのが一般的です。
ご相談で多いのは、パターンBです。賃貸にお住まいで、離れた実家を相続するというケースですね。この場合は「売却」を前提に段取りを考えることになります。
判断するのは福祉事務所です
保有を認めるか、売却を求めるかを決めるのは、お住まいの区の福祉事務所です。不動産の評価、世帯の状況、地域の事情によって結論は変わります。ここでの説明は一般的な考え方の整理として受け取っていただき、実際の扱いは必ず担当のケースワーカーへご確認ください。
相続した実家、いくらで売れそうか分かりますか
売ると決める前の段階で大丈夫です。
査定の目安があると、福祉事務所への相談も進めやすくなります。
営業時間 10:00〜18:00/定休日 水曜日・不定休
売れるまでの間、保護はどうなる?
ここが、多くの方がいちばん気にされる部分です。
すぐに保護が止まるとは限りません
家は相続した瞬間に現金になるわけではありません。売却には、相続登記、片付け、査定、買い手探しと、数か月以上かかるのが普通です。その間も生活は続きます。
そのため、売却が終わるまでは保護を受けながら手続きを進め、売れたあとに精算するという進め方がとられることがあります。
売れたあとに「返還」を求められることがあります
生活保護法第63条では、資力があるにもかかわらず保護を受けた場合、その受けた保護費に相当する額の範囲内で、福祉事務所が定める額を返還すると定められています。
相続の場合、資力が生じた時点は、原則として亡くなった方の死亡日と考えられています。つまり、親が亡くなった日から家が売れるまでに受けた保護費が、返還の対象になりうるということです。
数字でイメージしてみます
例1|売却で手元に300万円残った場合
毎月の保護費がおおむね12万円、親の死亡日から売却まで8か月かかったとします。
その間に受けた保護費:12万円 × 8か月 = 96万円
→ この96万円の範囲内で、返還を求められる可能性があります。
→ 残る約200万円は当面の生活費となるため、保護が停止または廃止になる可能性があります。
例2|古い家で、売却で手元に50万円しか残らなかった場合
同じく8か月で96万円の保護費を受けていたとします。
→ 手元に残った50万円の範囲で返還を求められる可能性があります。
→ その後に収入や資産がなければ、引き続き保護を受けられる可能性があります。
この計算はあくまで考え方の例です
実際の返還額は、売却にかかった費用の扱い、世帯の状況、福祉事務所の判断によって変わります。上の数字は仕組みをイメージしていただくための目安です。実際の金額は、必ず福祉事務所でご確認ください。
例2のように、古い家で売却額が小さい場合は、返還してもその後の保護が続くことがあります。「相続したら全部終わり」というわけではありません。
兄弟と共有で相続した場合の注意点
実家を兄弟姉妹で分けて相続する場合、よく起きるのが「共有名義」です。たとえば3人兄弟で3分の1ずつ持つ、といった形ですね。
自分ひとりでは売れません
家全体を売るには、共有者全員の同意が必要です。あなたが売りたいと思っても、他の兄弟が反対すれば売れません。福祉事務所から売却を求められても、すぐには動けないという状況が生まれます。
こうした事情がある場合は、そのことをケースワーカーへ具体的に伝えてください。「兄弟と話し合っているが、まだまとまらない」という状況を共有しておくことが、とても大切です。
遺産分割の段階で、取り分を整理する方法もあります
共有にしてから揉めるより、遺産分割の話し合いの段階で「家は兄弟のひとりが相続し、他の相続人には別の形で分ける」といった整理をするほうが、後の手続きは進めやすくなります。ただし分け方によっては扱いが変わるため、遺産分割の内容は福祉事務所にも相談しながら決めることをおすすめします。
相続放棄はできるのか
「いっそ相続を放棄したほうがいいのでは」と考える方もいらっしゃいます。ここは慎重に考えたい部分です。
借金が多い場合は、現実的な選択肢になります
亡くなった方に借金やローンが多く、家の価値よりマイナスの財産のほうが大きい場合は、相続放棄が現実的な選択肢になります。相続放棄は家庭裁判所での手続きで、原則として、自分が相続人になったことを知ってから3か月以内に行う必要があります。
プラスの財産がある場合は、問題になることがあります
一方で、売れば生活費になる財産があるのに放棄する場合は事情が異なります。生活保護は使える資産をまず活用することが前提の制度です。そのため、プラスの財産を放棄することについて、福祉事務所が問題視する可能性があります。
専門家の領域についてのお断り
相続放棄をするかどうか、遺産分割をどうするか、相続登記の申請などは、弁護士・司法書士など専門家の領域です。当社は法的な判断を行うことも、相続人間の交渉の代理人となることもできません。不動産の現状確認、査定、売却、住み替え先のご案内といった不動産実務の範囲でお手伝いし、必要に応じて提携する専門家や、法テラス等の公的な相談窓口をご案内します。放棄を検討される場合は、3か月の期限があるため、早めに専門家と福祉事務所の両方へご相談ください。
相続登記の期限にも注意が必要です
2024年4月1日から、相続登記が義務化されています。不動産を相続したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する必要があります。
そして実務上は、相続登記が済んでいないと、そもそも売却できません。売却を前提に進める場合は、登記が最初の関門になります。登記に必要な費用の扱いについても、あわせて福祉事務所に相談しておくと安心です。
売却を進めるときの流れ
パターンB(離れた実家を相続した)の場合を想定した、おおまかな流れです。
親が亡くなる
↓
福祉事務所へ相続が発生したことを届け出る
↓
財産の中身と相続人を確認する
↓
遺産分割の方向性を決める(福祉事務所にも相談)
↓
相続登記を行う
↓
実家の片付け・査定
↓
売却活動・契約・引渡し
↓
売却代金について福祉事務所へ報告し、精算する
ポイントは、最初と最後に必ず福祉事務所が入ることです。途中の段階でも、進み具合をこまめに伝えておくと、話がスムーズになります。
なお、パターンA(同居していた実家に住み続けたい)の場合でも、資産価値によっては売却と住み替えを求められることがあります。その場合は、売却と住み替え先の賃貸探しを同時に段取りする必要が出てきます。家を出る日と、新しい部屋に入る日がずれないよう、早めに相談してください。
気をつけたいこと
相続したことを届け出ずに過ごす
後から分かった場合、不正受給として扱われ、より重い負担になることがあります。
売却代金を、報告せずに使ってしまう
売却代金は資力として扱われます。使い道を決める前に、必ず福祉事務所へ報告してください。
相談せずに相続放棄を決める
プラスの財産を放棄すると、福祉事務所との関係で問題になることがあります。期限内に専門家と福祉事務所の両方へ相談を。
空き家のまま長期間放置する
建物の傷みが進むほど売却額は下がり、固定資産税や管理の負担も続きます。
よくあるご質問
Q1. 生活保護を受けていても、実家を相続できますか?
できます。ただし相続した財産は資産として扱われるため、すみやかに福祉事務所へ届け出る必要があります(生活保護法第61条)。財産の内容によっては、保護の停止や廃止、それまで受けた保護費の返還につながる場合があります。
Q2. 相続したことを福祉事務所に言わなかったらどうなりますか?
福祉事務所には金融機関などへ照会して資産を調べる権限があり、相続は後から分かることがほとんどです。届け出をしないまま保護を受けていた場合、不正受給として扱われ、返還に加えて上乗せした額の徴収を求められることがあります(生活保護法第78条)。正直に届け出ることをおすすめします。
Q3. 相続した実家に住み続けることはできますか?
今その家に住んでいる場合は、処分価値が利用価値に比べて著しく大きくない限り、保有が認められる可能性があります。一方、自分は別の場所に住んでいて実家に住んでいない場合は、売却して生活費に充てるよう求められるのが一般的です。判断は福祉事務所によります。
Q4. 家が売れるまでの間、保護は止まりますか?
すぐに止まるとは限りません。売却が終わるまで保護を受けながら手続きを進め、売れたあとに精算する進め方がとられることがあります。その場合、資力が生じた時点(原則として亡くなった方の死亡日)から売却までに受けた保護費の範囲内で、返還を求められる可能性があります。
Q5. 相続放棄はできますか?
借金などマイナスの財産が多い場合は、相続放棄が現実的な選択肢になります。原則として相続人になったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で手続きを行います。一方、プラスの財産がある場合に放棄すると、資産活用の観点から福祉事務所が問題視する可能性があります。早めに専門家と福祉事務所の両方へご相談ください。
Q6. 兄弟と共有で相続した場合、自分だけで売れますか?
家全体を売るには共有者全員の同意が必要なため、自分だけでは売れません。話し合いがまとまらない場合は、その状況を具体的にケースワーカーへ伝えておくことが大切です。
まとめ
最初に確認する3つのこと
① 福祉事務所に、相続が発生したことを届け出る
② 財産の中身と、相続人が何人いるかを確認する
③ その家に今住んでいるかどうかを確認する
- 住んでいない実家は、売却を求められるのが一般的
- 売れるまでは保護を受けながら進め、売却後に精算することがある
- 返還の対象は、原則として死亡日から売却までに受けた保護費の範囲内
- 古い家で売却額が小さければ、返還後も保護が続く可能性がある
- 共有になると単独では売れない。早めにケースワーカーへ共有を
- 相続放棄は期限3か月。プラスの財産の放棄は慎重に
- 相続登記は3年以内。登記が済まないと売却できない
相続は、手続きの話であると同時に、亡くなった方との別れの時間でもあります。全部を一度に片付けようとしなくて大丈夫です。まずは福祉事務所への一報だけ。そこから先は、ひとつずつ、周りの力を借りながら進めていけば十分です。
お身内を亡くされた直後は、心も体も、思っている以上に疲れています。眠れない、食欲がない、何も手につかないといった状態が続いているようでしたら、手続きより先に、ご自身を休ませることを優先してください。担当のケースワーカーには、そうした状態も含めて話して大丈夫です。岡山市の福祉事務所、地域包括支援センター、法テラスなど、無料で相談できる窓口もあります。ひとりで抱え込まなくていい問題です。
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※ 記事内の制度の取扱いは一般的な考え方の整理であり、特定の結果を保証するものではありません。保護の継続・停止、返還額、資産の保有の可否は、世帯の状況により異なりますので、担当のケースワーカー・お住まいの区の福祉事務所へご確認ください。
※ 当社は不動産業者であり、相続放棄・遺産分割・相続登記等の法的判断や、相続人間の交渉の代理は行えません。該当する場合は弁護士・司法書士等の専門家、または法テラス等の公的窓口をご案内します。
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